おばあちゃんが家から居なくなってもう何日もたちます。
私は毎日おばあちゃんが帰ってくるのを待っていますが、おばあちゃんは帰ってはきません。
『おばあちゃん!どうして私を置いて居なくなったのですか?』
『ウォーン、ウオーン』
毎日毎日おばあちゃんを呼びつづけていますが、やはりおばあちゃんは帰ってきません。
おばあちゃんの座っていた場所にも、おばあちゃんが寝ていた場所にも、おばあちゃんの姿はありません。
『おばあちゃん!』
『早く帰ってきてください』
「お父さん、この頃
小梅は元気がなく、食事もほとんど食べなくなったわ」
「何時も庭先を見て泣いてばかりいるし、凄く痩せてきた」
「このままだったり
小梅は・・・・」
由紀は泣きながらお父さんに訴えた。
「そうだなぁ、おふくろが死んだのが分からず、帰ってくるのを待っているみたいだなぁ」
「散歩に連れていっても直ぐに帰ろうとするし」
「食事もあまり食べなくなり、毛並みも悪くなってきた」
「お父さん、このままだったら
小梅もおばあちゃんの後を追って」
「嫌、そんなことを言わないで」
由紀は泣きながら二人に言いました。
「可愛がってもらっていた飼い主がいなくなると、犬はすごく弱るということを誰かに聞いたことがある」
お父さんはポツリと言いました。
ある晴れた朝
私が縁側から梅の木を見ていると、どこからか、私を呼ぶ声が聞こえてきました。
「
小梅や!
小梅」
この声はおばあちゃんの声。
私は周囲を見渡しました。
『おばあちゃん!どこにいるのですか?』
『私はここにいます』
私は家の中を探し回りました。
けれどもおばあちゃんはどこにもいません。
『おばあちゃん』
私は再び縁側に来て梅の木を見ました。
『おばあちゃん!ここにいたのですか』
『おばあちゃん』
梅の木の下におばあちゃんが笑いながら立っていました。
『
小梅、こちらにおいで』
おばあちゃんが手招きしています。
私は一目散におばあちゃんめがけて駆け寄りました。
『おばあちゃん!』
私はおばあちゃんの胸の中に飛び込みました。
その時おばあちゃんの姿はスート消えてなくなりました。
『おばあちゃん、どこですか』
『どこに行ってしまったのですか』
私は懸命におばあちゃんを探しましたが、おばあちゃんの姿はありません。
どこからともなく優しかったおばあちゃんの懐かしい臭がしてきました。
しかしおばあちゃんの姿はありません。
私は梅の木の下に座り周囲を見渡しました。
そしてその場に座り込みました。
どれくらい時間がたったでしょうか。
冷たい雨が降ってきました。
『おばあちゃん!』
『ワオーン、ワオーン』
私は懸命におばあちゃんを呼び続けました。
その時です、おばあちゃんが目の前に現れました。
『
小梅!ひとりにしてごめんよ』
『寂しかっただろう、もう離さないから』
そう言っておばあちゃんは私をきつくきつく抱きしめてくれました。
『おばあちゃん、もうどこにも行かないでください』
私は懸命におばあちゃんに訴えました。
「もう決して離さないから、どこにもいかないから」
「
小梅!」
『おばあちゃん!』
私はおばあちゃんにきつく抱きしめられました。
『おばあちゃんが帰ってきてくれてとても嬉しいです』
「
小梅や」
「お父さん、大変早く来て、小梅が、小梅が」
由紀の声で家内と二人駆けつけました。
「アァ・・・・」
梅の木の下、雨が激しく降る中、小梅が横たわっているのが見えました。
「小梅!」
小梅を抱き抱えましたが、小梅は既に冷たくなっていました。
「小梅!・・・・・・」
完
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